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新潟地区(正式には新潟は関東Ⅲ地区です)
では,2013年度から「高校生のための心理学
講座」を開催しています。「心理学は実証に基
づく科学的な学問である」ことを伝えたいとい
う開催趣旨に共鳴し,鈴木光太郎先生(実験心
理学・元新潟大学人文学部教授)と共に企画を
お引き受けしました。幸い新潟県には講師を
お願いしたい先生方がたくさんいらっしゃい
ます。一つの大学に偏らないように,また領域
のバランスを考えながら講師を依頼してまいり
ました。これまでに上述の鈴木光太郎先生の
他に,森口佑介先生(発達心理学・現京都大
学・元上越教育大学),伊村知子先生(比較心
理学・現日本女子大学・元新潟国際情報大学),
杉澤武俊先生(計量心理学・現早稲田大学・元
新潟大学)にご登壇いただきました。私も2度
ほど登壇したことがあります。
さて昨年度は,福島治先生と私が企画者とな
り,2019年9月29日(日)に新潟大学サテラ
イトキャンパス「ときめいと」にて開催いたし
ました。42名の参加があり,そのうち高校生
が20名,残りは保護者や教員,大学生等でし
た。参加者人数や内訳はほぼ例年通りでした。
以下,その内容を紹介いたします。
1 時間目 心理学史:心理学はどんな科学か?
新美亮輔先生(新潟大学)
この講義は「ネコに心はあると思うか」「ヒ
マワリに心はあると思うか」といった問いを投
げかけるところから始まりました。さらには
「生まれたての赤ちゃんとおとなの心は同じだ
と思うか」「人間の心は体のどこにあると思う
か」「心と体の存在は別々だと思うか」と次々
と興味深い問いが畳みかけられます。普段はほ
とんど意識しない「心」についての考えが大い
に揺さぶられ,知りたい気持ちが高まります。
こうした心についての問いは,心理学成立以前
のはるか昔から,哲学や宗教学の問題として真
剣に探究されてきたこと,心理学はこれらとは
どう異なり,科学としてどう心を探究する学問
なのかをわかりやすく説明していただきまし
た。一般に学生の関心を惹きつけるのが難しい
と言われる心理学史。私自身も知らないこと満
載でした。講師の上手な問いかけにより高校生
の関心を引き出していただき,後続の講義への
良いプロローグとなりました。
2 時間目 発達心理学:心はいつ生まれるか?
白井 述先生(新潟大学)
心は白紙のようなもので,生後の経験をそこ
に書き入れることが心の発達なのか。それとも
乳児は何かしらの知性をあらかじめ備えて生ま
れてくるのだろうか。心理学においては,行動
主義,ピアジェ理論と考え方の大きな変遷は
あったものの,基本的には,生後間もない乳児
は何も知らないと長らく考えられてきました。
一方,近年は乳児研究における方法の進化がめ
ざましく,生後間もない乳児の知的有能性を示
す証拠が次々に示されています。これらを豊富
なヴィジュアル資料とともに解説していただき
ました。赤ちゃんはただ未熟でかわいいもの。
おそらく多くの参加者の考えはこれに近いもの
だったと思われますが,だからこそ常識を覆さ
れる知的興奮でいっぱいだったことでしょう。
先生ご自身が進めておられる最先端の乳児の知
覚発達研究のこぼれ話も講義のあちこちに散り
ばめられ,赤ちゃん研究ファンの私にとって
高校生のための心理学講座
@新潟大学
新潟大学教育実践学研究科 准教授
中島伸子
(なかしま のぶこ)
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私の出前授業
Profile─
1997年,お茶の水女子大学博士課程人間文化研究科単位取得退学。1997年,新潟大学
教育学部講師着任。1999年,お茶の水女子大学より博士号(人文科学)取得。2019年
度より現職。専門は発達心理学,認知発達。著書は『乳幼児は世界をどう理解してい
るか:実験で読みとく赤ちゃんと幼児の心』(共著,新曜社),『発達心理学Ⅰ』(分担執
筆,東京大学出版会),『新保育ライブラリ 子どもを知る 保育の心理学Ⅰ』(分担執筆,
北大路書房)など。
は,やっぱり赤ちゃん研究は面白いと再確認す
る贅沢なひとときでした。
3 時間目 パーソナリティ心理学:性格を探る
並川 努先生(新潟大学)
私たちは幼児期から,無意識のうちに個人の
パーソナリティを推論し,行動の予測や説明に
使用します。性格に関する言葉を多用し,自他
の性格を気にすることも少なくありません。思
春期にあたる高校生にとってはなおさらでしょ
う。この講義では,紀元前に起源のあるパーソ
ナリティ研究の歴史を紹介しながら,性格概念
の捉え方の多様性を示し,さらにはそれを科学
的に測定する方法について,初歩的な統計にま
で踏み込んでわかりやすく解説していただきま
した。高校生が読む雑誌やメディアには,性格
検査もどきが溢れています。それらに慣れ親し
んできた彼らにとっては,眼から鱗だったに違
いありません。私自身は,パーソナリティ概念
の歴史的な変遷のお話を聞きながら,そこから
パーソナリティ概念発達についての何か新しい
研究アイデアを見つけられないか,そんなこと
を考えていました。
4 時間目 社会心理学:社会的な心
福島 治先生(新潟大学)
私たちは社会の中で生活しています。そこに
は様々な集団があり,様々な状況があります。
この講義では,集団,対人関係,個人という単
位にわけて,各単位における重要な研究例を紹
介していただきました。集団の研究例として
は,アッシュの社会的同調実験,対人関係の研
究例としてはキティ・ジェノヴィーズ事件に端
を発してなされたラタネとダーリーによる傍観
者効果を示す実験,個人の研究例としては印象
形成についての研究等。どれも常識を覆すイン
パクトのある研究であり,初学者をこの領域に
強く惹きつけるものでした。短い時間の中,幅
広いテーマがある社会心理学の中から,バラン
スよく魅力的なトピックスを選んで初学者を誘
う。私にとっては,授業構成の点でもとても勉
強になる講義でした。
5 時間目:計量心理学:心を測る
阿久津洋巳先生(新潟リハビリテーション大学)
心理学は感情や態度,性格,知能など,つか
みどころがないあいまいなものを測定し数量化
することを通して,科学として発展してきま
した。これらをいかに測定するのか。高校生に
とってはなかなか難しいテーマです。この講義
では,実際に自己効力感の測定を体験すること
によって,そのイメージを掴んでもらうことが
なされました。さらに心理尺度の作成法や得ら
れたデータの分析方法など,初歩的な統計に踏
み込んで解説をしていただきました。心理学が
科学であること,そして科学的な測定がいかに
厳密なものか。これらを高校生がもっとも強く
感じた時間だったのではないでしょうか。
講義を聴講した高校生の感想として「心理
学への興味が高まった」「進路の参考になっ
た」「心理学と言っても様々な分野がある」「文
学的なものではなく科学的だと知って驚いた」
「色々な学問とつながっている」「神秘的なイ
メージがあったが身近なことを科学的な手法を
用いて明らかにすることだと気づいた」などが
ありました。本講座の趣旨は,かなりのところ
達成されているのではないかとの手応えを感じ
ています。あとはいかに多くの高校生に開催の
アナウンスを届けられるかです,開始当初から
現在まで「広報」が最大の悩みの種なのです。